刹那の間こんな事を考えた自分は、泣いて好いか笑って好いか、わからないような感動に圧せられながら、外套の襟に顔を埋めて、匇々カッフェの外へ出た。が、後では毛利先生が、明るすぎて寒い電燈の光の下で、客がいないのを幸いに、不相変金切声をふり立て、熱心な給仕たちにまだ英語を教えている。
「名に代る詞だから、代名詞と云う。ね。代名詞。よろしいかね……」
(大正七年十二月)
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毛利先生
芥川竜之介
刹那の間こんな事を考えた自分は、泣いて好いか笑って好いか、わからないような感動に圧せられながら、外套の襟に顔を埋めて、匇々カッフェの外へ出た。が、後では毛利先生が、明るすぎて寒い電燈の光の下で、客がいないのを幸いに、不相変金切声をふり立て、熱心な給仕たちにまだ英語を教えている。
「名に代る詞だから、代名詞と云う。ね。代名詞。よろしいかね……」
(大正七年十二月)