山づとは何なに。山の蔓草や羊歯の葉の山縵や、「あしびきの山の木梢」から取つたといふ寄生木の頭飾や、山の立ち木の皮を剥いで削り掛けた造り花などであつた。かうして易へられた山づとは、初春の家の門や、家内に懸けられた。牀柱には山かづら、戸口や調度に到るまで、山へ行つた様に見せる山草、軒に削り掛け、座敷に垂す繭玉・餅花・若木の作枝が、古くして新しい年の始めの喜びを衝昂げて来るのも、其因縁が久しいのだ。
此三州の山家の門松は、東京などのとは違つて居た。さう言へば、歳神なども常世神や先祖のみ霊に近づいた考へで、祀られて居た。さう云ふ話に這入らない中に、春の初めの此「言ひ立て」も、めでたく申しをさめねばならなくなつた。「たう/\たらり」長々しいことを何より先にする言祝ぎの言ひ癖が出たと思うて、読者に於ても、初笑ひを催して頂きませう。