凡例
一 この書題して「少年文学」といへるは、少年用文学との意味にて、独逸語の Jugendschrift (juvenile literature) より来れるなれど、我邦に適当の熟語なければ、仮にかくは名付けつ。鴎外兄がいはゆる穉物語も、同じ心なるべしと思ふ。
一 されば文章に修飾を勉めず、趣向に新奇を索めず、ひたすら少年の読みやすからんを願ふてわざと例の言文一致も廃しつ。時に五七の句調など用ひて、趣向も文章も天晴れ時代ぶりたれど、これかへつて少年には、誦しやすく解しやすからんか。
一 作者この『こがね丸』を編むに当りて、彼のゲーテーの Reineke Fuchs(狐の裁判)その他グリム、アンデルゼン等の Maerchen(奇異談)また我邦には桃太郎かちかち山を初めとし、古きは『今昔物語』、『宇治拾遺』などより、天明ぶりの黄表紙類など、種々思ひ出して、立案の助けとなせしが。されば引用書として、名記するほどにもあらず。
一 ちと手前味噌に似たれど、かかる種の物語現代の文学界には、先づ稀有のものなるべく、威張ていへば一の新現象なり。されば大方の詞友諸君、縦令わが作の取るに足らずとも、この後諸先輩の続々討て出で賜ふなれば、とかくこの少年文学といふものにつきて、充分論らひ賜ひてよト、これも予め願ふて置く。
一 詞友われを目して文壇の少年家といふ、そはわがものしたる小説の、多く少年を主人公にしたればなるべし。さるにこの度また少年文学の前坐を務む、思へば争はれぬものなりかし。
庚寅の臘月。もう八ツ寝るとお正月といふ日
昔桜亭において 漣山人誌