ふと氣がついてみると、私は今馬鹿に固くなつてこれを書いてゐました。若しや私の言ひ方があなたを説得するやうな調子になりはしなかつたかと思つて、私は今思はず面を赤らめてゐます。どうぞ、あなたに贈る手紙にことよせて、私がくづれ易い自分の努力を誡めているものと、失禮をお許し下さい。
くれ/″\もゝう、境遇に向つて不平の呟きを洩らす時は過ぎ去りました。「私や子供のために、こんなに痩せながら働かなければならないのだなんて、恩にばつかり被せてゐるのよ。」と仰言つたあなたの美しい寂しい笑顏を、私は今思ひ浮べてゐます。ねえ、私達は潔くその恩を被ようではありませんか! さうして愛を豐かに持つことに努め、それをすべてに捧げることに、決して自分の利益を考へないやうにと心掛けませう。
私はこれから一生懸命勉強をしようと思つてゐます。私がこんど六十の手習ひのやうな語學を初め出しましたのは、その第一歩のつもりなんです。私達は決して今のまゝで死んではなりません。その貧しさには決して堪へられません。私達はもう少し人間らしく生きなければなりません。今にもうすぐ私達の一生にも冬がまゐります。私達はこの若さの秋に於て、出來るだけの働きをしなければなりません。
今夜はどうも思ひがけない手紙を書いてしまひました。どうぞ御主人樣によろしくお傳へ下さい。そして、またお近いうちに是非お遊びにいらしつて下さいまし。ではさよなら!