と言って竜之助は、二人の偽役人が乗って来た乗物にお伴の連中をそのままにして乗り込んでしまいました。お伴の連中が狐を馬に乗せたような面をして竜之助を荷ってここを立って行ったのは昨日の朝。
若い者の頭分は、それをいろいろな仕方話で竹刀で型をして見せたりなんかして、だいぶ芝居がかりで話しました。ことに竜之助が槍で突いた時の呼吸や、一刀の下に首を打放した時の仕草などを見て来たようにやって見せて、
「なにしろ強い人でございます、滅法界もなく強い人でございます。あれから当家へおいでなすった時に、こうして私共が剣術をしているのを見て……ではない、その様子を聞いていまして、さあこうして拙者が立っているから打ち込んでごらんと、竹刀を片手にそこへ突立っておいでなさるところを、大勢して覘って打ち込んでみましたけれども、どうしても身体へ触ることができませんでした。眼が見えないであのくらいですから、眼が見えたらどのくらい強いんだかわかりません」
「その盲目の武士という者こそ、永年拙者が尋ねている人」
兵馬は一礼して、この家の門を出て行きました。
望月の家を走せ出した兵馬が、この村をあとにしてもと来た道。そこへちょうど通りかかったのは、空馬を引いた、背に男の子を負うた女。
「その馬はこれからどちらへ行きます」
「これから三里村を通って七面山の方へ参るのでござんす」
「はて、それでは少し方角が違うけれど、拙者はちと急ぎの用があって甲府まで帰らねばならぬ者、お見受け申すに、馬は空荷の様子、せめてあの丸山峠を越すまでその馬をお貸し下さらぬか」
兵馬はその女の人に頼んでみました。
「お急ぎの御用とあらば……わたくしどもには少し廻りでござんすけれど、お貸し申してもよろしうございます、お乗りなさいませ」
兵馬は、この婦人が快く承知をしてくれたのを嬉しく思いました。
しかし、馬に乗りながら見るとこの婦人が、眼に涙を持っているのが不思議であります。