四
子供達は、お爺さんを捕まえそこないましたけれど、きのこのことを考えると、うれしくてたまりませんでした。
翌日になると、子供達は朝早くから起き上がって、皆誘い合わして、胸をどきつかせながら、林の所へやって来ました。するとどうでしょう。林の中一面に松茸や初茸やしめじや……金茸銀茸などが、落葉や苔の中から頭を出してるではございませんか。
「やあ、たくさんはえてる!」
皆は我を忘れて、林の中に駆け込んで、きのこを取り始めました。ところが不思議なことには、その一つを取ってしまうと、今まではえてたのはもちろんのこと、手に取ったきのこまでが、煙のように消えてなくなりました。
子供達はびっくりして、互いに顔を見合わせました。するうちに、ある一人がふと思い出しました。
「あ、しまった! ありがとうを忘れたからなくなったんだ」
なるほど、きのこを一つ取るごとにありがとうと言わなければならなかったのです。
子供達は相談しました。お爺さんを呼び出して、謝った上で、またきのこをはやしてもらおうと考えました。それで、例の通りたき火をし、歌ったり踊ったりして、お爺さんが煙の中に出て来るのを待ちました。けれど、どうしたのか、お爺さんは出て来ませんでした。
子供達は悲しくなって、中にはもう涙ぐんでる者さえありました。すると、ある一人が言い出しました。
「お爺さんは怒ってるに違いないや。だけど、お爺さんはおもしろいことが好きだから、皆で何かおもしろいことをして遊ぼうよ。そしたらお爺さんも笑い出して、出て来るかも知れないぜ」
皆はそれに賛成しました。そしておもしろいことを考えつきました。
めいめい、木の枝を切り取って、それを頭に巻きつけました。帯の所にも巻きつけました。手には、美しく紅葉したかえでの枝を持ちました。そして、林の中に散らばって、大きな木の根本に隠れました。一、二、三、と合図の声で、皆一度にぴょんと飛び出して、踊りながら歌をうたいました。
きいのこきのこ
きんたけぎんたけどこいった
おやまのじいさんどこいった
きのこのじいさんどこいった
でーてこ でーてこう
踊りながら次第に集まってきて、円く輪をつくって、くるくると廻りました。
アハハハハハという笑い声がしました。そらッ! と皆振り返って見ると、向こうの茂みの中に、お爺さんがにこにこして立っていました。お爺さんは言いました。
「とうとうわしの方が敗けてしまった。お前達はほんとにおもしろい児だ。明日からまたきのこをたくさんはやしてあげよう。だがわしはもう決して出て来ないよ。お前達がきのこをたくさん取っていったら、村の人達も不思議に思って、皆でやって来るに違いない。わしはお前達のような子供の前に出て来るのは構わないが、大人達の前に出て来ると、きっと悪いことが起こるのだ。では、これでお別れだ。そして、わしがいないと危ないから、もうたき火はしないがよい。それから、きのこを取るたびに、お前達を大変好きだった山の爺さんのことを、思い出してくれよ。よいかね!」
そして白髪白髭の大きなお爺さんは、ちょっと会釈をするように頭を動かしましたが、そのまますーっと消えてしまいました。
子供達はにわかに悲しくなって、しくしく泣き出しました。すると、どこからか非常に美しい小鳥の声が聞こえてきました。その声が、「きいのこきのこ……」と歌ってるようでした。それを聞いてるうちに、子供達はまた心が楽しくなりました。山の爺さんの話をしながら、村へ帰って行きました。
翌日の朝、皆で、「おうさむこさむ……」や「きいのこきのこ……」などを歌いながら、その林にやって来ますと、一面にきのこがはえていました。けれどもうお爺さんは、歌っても踊っても、決して出て来ませんでした。
ただきのこだけは、その雑木林の中に、毎朝一面にはえていました。それを子供達は、「お山の爺さんありがとう!」と言いながら、一つひとつ取りました。いつも持ちきれないほどたくさんありました。